歯周病は歯肉炎、歯周炎、咬合性外傷に大別されます。このうち、歯肉炎は10代から20代を中心に、歯周炎、咬合性外傷は40代以降に多く見られます。歯周炎が40代以降に多くみられる原因はいくつかありますが、これまで何度も述べてきたとおり歯肉炎を放置することが最大の原因です。同時に 40歳を過ぎるとヒトは多くの面で免疫力が弱まる事が予想されます。口の中は細菌が住むのに最適の環境ですので体の抵抗力が弱まると細菌は一気にその数を増し、歯肉炎から歯周炎へと進行します。さらに、40歳を過ぎるとヒトはいろいろな成人病(メタボリックシンドローム、糖尿病など)にかかりやすくなり、このことも歯周炎が増える原因となります。また、歯周病は歯科疾患の中で唯一の生活習慣病に認定されていますので、40歳を過ぎてからのライフスタイルの乱れが歯周炎を進行させるともいえます。また、歯周炎を進行させるもう一つの原因である噛み合わせの悪さも40歳ごろより悪化すると考えられます。以上述べましたように、歯周炎の大部分は40歳ごろから進行しますので、若い時 よりはるかに厳しくブラッシングを中心とする口腔のケアーを強化し、さらに、ライフスタイルの健全化にも努めることが歯周炎の発生や進行を防ぎ、自分自身の歯を残すことにつながると思って下さい。
野口俊英
前回、歯肉炎と歯周炎の違いについて述べましたが、いずれの場合でも歯と歯茎(歯肉)の間にポケットという溝が出来ます。このポケットは歯茎が健康な時でも見られる歯と歯茎の間のスペース(歯肉溝)、通常2ミリ以下、がより深くなったものです。ただし、その作られ方には違いがあり、歯肉炎のときに 生じる歯肉ポケットは歯肉炎により生じた歯茎の腫れが原因です。一方、歯周炎でみられる真性ポケットは歯茎が歯の表面から剥がれることにより作られます。真性ポケットが作られた歯周炎では病気が歯茎(歯肉)からその下にある歯槽骨、歯根膜、セメント質のまで及ぶようになり、自分自身の歯を失う最大の原因になります。皆さんが歯医者さんで針のようなもの(ポケット探針)によって歯茎がチクチクと感じるのはこのポケットの深さを測っていると思って下さい。この深さが大きければ大きいほど歯周炎が進行していることになります。歯周炎が進行するのはこの真性ポケットの中に住みつくようになった空気を好まない細菌群(歯肉縁下プラーク)が最大の原因です。これらの細菌群は歯肉炎の時や虫歯 (ウ蝕)の時に存在する空気を好む細菌群とは全く異なるもので、深い溝の中に住みついているので歯ブラシなどで取り除くのは困難です。
次回も歯肉炎と歯周炎の違いについて述べる予定です。
野口俊英
これまでは歯周病の初期の段階である「歯肉炎」について述べてきましたが、今回からは歯周病が進行するとともに生じる「歯周炎」について話を進めたいと思います。
「歯肉炎と歯周炎との違い」
1.歯肉炎は病気が歯肉のみに限られているのに対し、歯周炎では歯肉以外の歯周組織(歯槽骨、歯根膜、セメント質)にまで及んで います。
2.歯肉炎は若い世代に起こりやすいのに対し、歯周炎は40代以降の人に多く見られます。
3.歯肉炎の最大の原因はこれまでも述べてきたように染めだして見ることのできる歯肉縁上プラークが中心でしたが、歯周炎では歯周ポケット(歯
と歯茎の間にできた溝)の中に存在する歯肉縁下プラークが最大の原因になります。
4.歯肉炎は病気の原因である歯肉縁上プラークを取り除けば健康な状態に戻りますが、歯周炎では病気の原因を取り除いても健康な時と同じ状
態に戻るのは困難です。
5.歯周炎では歯肉炎に較べ、全身的疾患(糖尿病、心臓病など)との関連性がより強いことが解り始めています。
次回から はこれらの項目について詳しく述べる予定です。
野口俊英
前回はプラーク以外の原因も関連する「全身因子関連歯肉炎」について述べましたが、今回は「非プラーク性の歯肉炎」および「歯肉増殖」について述べます。
A 「非プラーク性歯肉病変」
1.プラーク細菌以外の感染による歯肉の病変 Gingival lesions induced by other infections
プラーク中に存在する細菌以外の細菌によるもの、ウイルス感染によるもの、真菌感染によるものに分けられますが、頻度は極めて稀です。
2.粘膜皮腐病変 Mucocutaneous disorders
扁平苔癬 Lichen planus, 類天庖瘡Pemphigoid, 尋常性天庖瘡Pemphigus vulgaris, エリテマトーデスLupus erythematosus, その他 others
に伴って現れる歯茎(歯肉)の病変で、プラーク性歯肉炎とはかなり異なり、出血、発赤、などが著しくなります。
3.アレルギー性歯肉炎 Allergic reactions
アレルギー症状の一部として歯肉に炎症が生じたもの
4.外傷性歯肉病変 Traumatic lesions of gingiva
乱暴なブラッシングなどにより傷ついてしまった歯茎(歯肉)
B 歯肉増殖 Gingival overgrowth
1.薬物性歯肉増殖症 Drug-induced gingival overgrowth
抗痙攣薬であるフェニトイン、カルシウム拮抗薬であるニフェジピン、免疫抑制薬であるシクロスポリンなどの服用により生じた歯肉の増殖
2.遺伝性歯肉線維腫症 Hereditary gingival overgrowth
歯肉全体が異常に増殖し、歯全体を被ってしまうこともある。遺伝的要因が大きいとされていますが、いまだ病因は不明です。
野口俊英
これまでは歯周病の中でも初期の段階であり、デンタルプラーク(歯垢)が最大の原因である「プラーク性歯肉炎について述べてきました。しかし、歯肉炎には頻度は多くありませんが、その他の原因が関与するいくつかの歯肉炎がありますので紹介いたします。 今回述べるのは「全身因子関連歯肉炎 Gingivitis modified by systemic conditions 」という病気であり、以下の六つがあります。
1.思春期性歯肉炎 Puberty-associated gingivitis
思春期にみられる歯肉炎で、比較的少量のプラークの沈着でも明らかな歯茎(歯肉)の炎症がみられます。性ホルモンの上昇がその進展に影響を与えるとされており、男女ともに発現します。
2.月経周期関連歯肉炎 Menstunal cycle-associated gingivitis
女性にみられる歯肉炎で、月経時に進展するといわれています。
3.妊娠関連歯肉炎 Puregnancy-associated ginngivitis
妊娠期にみられる歯肉炎です。炎症が強く、歯肉の腫れと出血が顕著であり、エストロジェンなどの性ホルモンが関与しているとされています。
4.糖尿病関連歯肉炎 Diabetes-associated gingivitis
糖尿病の患者さんでは歯周病が進行しやすいことが多くの研究によって確認されています。
5.白血病関連歯肉炎 Leukemia-associated gingivitis
急性白血病の患者さんにみられる歯肉炎です。慢性ではまれです。歯肉の腫れが著しく、出血も顕著です。
6.その他の全身状態が関連する歯肉炎 Others
詳細につきましては日本歯周病学会編の「歯周病学用語集、第一版および第二版」、医歯薬出版社を参考にしてください。
野口俊英
前回は歯ブラシの正しい使用法について述べましたが、ハブラシで除去できるプラーク(歯垢)は歯の表側(唇や頬に向いた面)と裏側(舌に向いた面)、および物を噛む面だけです。残念ながら歯と歯の間(歯間部)までは歯ブラシの毛先が届かないためプラークを除去することは困難です。歯間部の歯茎は構造的に弱い部分(コル)なのでプラークが除去出来ないとすぐに炎症がおきてしまい、腫れたり(腫脹)、出血したり、赤くなったり(発赤)します。このため、歯間部のプラークを除去するための道具が開発されプラ ーク除去効果が確認されています。
デンタルフロスは特殊加工された糸であり、歯と歯の間の隙間が狭い場合に使います。歯と歯の間に親指と人さし指で両端を挟んだフロスをゆっくりと
入れていき、歯の表面に付着したプラークをこすり取ります。このとき、歯茎(歯肉)を傷つけない事が大切です。
歯間ブラシは歯と歯の間が広く開いてしまった場合に用います。歯と歯の間にゆっくり歯間ブラシを入れ、フロスと同様にプラークをこすり取ります。おもて側とうら側の両方から入れることが重要です。
デンタルフロスも歯間ブラシも使い方が難しいことが多いので歯科医や歯科衛生士に正しい使用法を教えてもらってください。欧米ではこれらの歯間部清掃用具の普及が著しく 、多くの人々が使用していますが、その理由は歯間部の歯茎を守ることの重要性を熟知しているからだと思います。
自分自身の歯を守るため、ぜひ毎日の歯磨きのなかに取り入れて下さい!
野口俊英
前回、歯ブラシや歯間部清掃用具(デンタルフロス、歯間ブラシ)の選び方について述べました。今回はまず、歯ブラシの適切な使い方についてのべます。
歯ブラシの正しい使い方を知るために!
歯ブラシで歯の表面に強固に付着したデンタルプラーク(歯垢)を機械的に除去する方法はいろいろありますが、それらは大きく二つに分けられます。一つは歯ブラシの植毛部の脇腹(側面)を用いる方法(ローリング法、スティルマン改良法など)でプラークの除去と同時に歯茎(歯肉)のマッサージ効果を期待して行います。二つ目は植毛部の毛先を用いる方法(バス法、スクラビング法など)で、プラークの除去を最大の目的に行います。どの方法を用いてもプラークは除去出来ますが毎日行う歯磨きではいかに効率的にプラークを除去出来るかが重要です。このため、近年ではスクラビング法やバス法などのプラーク除去効果の高い方法が推奨されるようになってきています。スクラビング法では歯ブラ シの毛先を歯の表面に対して90度または45度に当てて歯ブラシを子刻みに水平方向に動かします。バス法では歯と歯茎の境目(歯頚部)に柔らかい毛の歯ブラシを45度に当て同じく水平方向に小刻みに動かします。歯周病の患者さんでは歯と歯茎の境目に付着したプラークを除去することが最大の目的なため、これらの方法が普及しています。さらに大切な事はいずれの方法でも歯ブラシの毛先がターゲットとなる歯の表面に届いている事が必須なため、歯ブラシの植毛部は小さいものが良く、場合によっては植毛部を一本の歯の大きさに限ったタイプのもの(タフトブラシ)が用いられます。特に、歯並びの悪い部分や普通の歯ブラシが届きにくい奥歯(大臼歯)などで効果的です。歯ブラシを動かす前に歯 ブラシの毛先が正しく歯の表面に当たっているかを確認してください。
次回は歯間部清掃用具(デンタルフロス、歯間ブラシ)の使い方について述べます。
野口俊英
歯の表面に強固に付着して歯肉炎の最大の原因となるデンタルプラーク(生きた細菌の集団)を効率的に除去するには、適切な道具を選ぶ必要があります。
1.歯ブラシの選択
歯ブラシによるプラークの除去が可能な面は、歯の表 側(唇や頬に向いている面)、と歯の裏側(舌に向いている面)と噛む面です。これらの面に付着したプラーク(歯垢)を歯ブラシのわきの部分の毛ではなく毛先を使って取り除きます。歯ブラシで効率的にプラークを除去するためには歯ブラシの毛先が歯の面に対し直角あるいは45度に当たっている必要があります。このため、歯ブラシの植毛部は小さめで奥歯にも十分届くことが重要です。毛の硬さは磨き方にもよりますが、中等度から軟かめを選んでください。
2.デンタルフロス、歯間ブラシの選択
これらの道具は歯ブラシの毛先が届かない面、すなわち、歯と歯の間の面(隣接面)のプラークを除去するために用います。デンタルフロス(特殊加工した糸)にはワックスで コーティングしたものとしてないものとがありますが、最初はコーティングしたもののほうが使いやすいと思います。隣の歯との隙間が大きい場合にはデンタルフロスではなく歯間ブラシを用います。歯間ブラシにはいろいろなサイズがあり隙間の大きさによって使い分けます。歯と歯の間の歯茎(歯肉)は歯ブラシの毛先の届かない部分であり構造的にも弱くなっていますので、これらの道具を適切に用いることは健康な歯茎を維持するのに極めて重要と言えます。
野口俊英
これまでにしつこいくらい歯肉縁上プラークが歯肉炎の最大の原因であることを述べてきました。そこでいよいよ今回から歯肉縁上プラークを取り除くために必要な基本的な知識について述べます。。
プラークの主体は生きた細菌の集団であり、細菌自身が作りだす粘着性物質(グルカン)によって歯の表面に強固 に付着しています。このため、水による”うがい”などで簡単に除去することは出来ません。そこで、プラークの除去はハブラシ等を用いた機械的(物理的)な除去が必須となります。もちろん、ある特殊な薬剤を用いてプラーク中の細菌をコントロールすることは可能ですが、そのことについては次回以降に説明いたします。
皆様御存じのように永久歯は親知らずを除いて28本(乳歯は20本)あります。そして、それぞれの歯は円柱形ですが一本、一本その形が異なります。ですから、これら全部の歯の周囲からプラークを完全に取り除くことはかなり困難な事が解ります。歯が基本的には円柱形であるということは全部で5つの面からプラークを除去しなければならないということになります。つま り、歯の表側(唇や頬の側)、歯の裏側(舌の側)、隣の歯と接している2つの面、そして噛む面の5つの面ということです。
次回からは歯肉縁上プラークをいかに効率的に除去するかについての具体的な知識や方法について述べます。
野口俊英
前回まではデンタルプラーク(歯垢)のなかの歯肉縁上プラークが歯肉炎の最大の原因であることを何度も述べてきました。今回はそのプラークを効率的に取り除き歯茎(歯肉)を健康に するための正しい知識について述べます。
プラーク除去の基本は適切な歯磨きです。正しい歯磨きの方法を獲得しなければ歯の表面に付着したプラーク完全に除去することは困難です。歯ブラシを口の中に入れて動かしているだけでプラークは除去できると思っていないでしょうか?前回、述べましたように歯の形は基本的には円柱状です。ですから、これらの歯の全周から完全にプラークを除去するためにはいくつかの条件が必要となります。
1.道具の選択
歯磨きに必要な道具は歯ブラシだけではありません。円柱状をした歯の全部の面からプラークを除去するには歯と歯の間に用いるデンタルフロス(特殊加工した糸)や歯間ブラシなどの歯間部清掃用具が必要となります。
2 .歯ブラシや歯間部清掃道具の正しい使用法
これらの方法は自己流でやりますと歯が削れたり、歯茎を傷めたりします。歯科医や歯科衛生士などのプロに習うことをお奨めします。
3.歯磨き剤の選択
歯磨き剤は基本成分としての研磨剤が中心ですがそれが含まれるものと含まれないものとがあり、さらに、ムシ歯(う蝕)や歯周病予防のための薬用成分、さらには知覚過敏を防ぐための成分などを含むものもあります。
次回はこれらの項目について述べます。
野口俊英