前回の動物実験の結果で糖尿病を起こしやすいラットでは歯周炎により、歯周組織の中 心をなす歯槽骨の吸収が進行しやすいことを述べました。
その原因の一つが歯周組織に産生されたTNF-αであることは述べましたが、我々はその他のメカニズムとし て組織の細胞を直接傷害するNO(一酸化チッソ)に注目し、歯周炎を惹起させた糖尿病ラットの歯周組織に炎症性サイトカインの一種であるiNOS(inducible nitric oxide synthese)のm-RNAが過剰発現していることを確認しました。その詳細につきましては次回述べます。
野口俊英
前回、ZDFラットの説明がありませんでしたが、ZDFラットは自然発症型糖尿病ラットであり、ヒト成人の2型糖尿病およびその合併症に近い症状を示します。私どもの研究ではこれらのラットに前回述べましたような方法で歯周 病を起こしやすくし、その結果を歯周病を起こさなかった場合と比較してみました。比較は組織標本やマイクロCTという機械で観察しました。
そうすると歯周病を起こした場所では歯周組織の中心である歯槽骨の吸収が大きくなっていました。もちろん、これらの動物実験の結果がそのままヒトに当てはまるとは言えませんが歯周病と糖尿病との関連性を示唆する一つのデータになると思われます。
野口俊英
これまでは歯周病と糖尿病との関連性を臨床的および基礎的研究の観点から見てきましたが、今回と次回は動物実験を中心とした両者の関係について我々の結果を中心に述べてみます 。我々の研究では糖尿病になりやすいように開発されたラット(GKラット、ZDFラット)を供与して頂きそのラットに歯 周病をおこさせ、健康なラットとの比較を行いました。
歯周病を起こす方法はいろいろありますが、歯と歯茎(歯肉)との境界部に特殊な糸やワイヤーを巻きつけます。ちなみにGKラットはGoto Kakizakiラットで日本人の先生の開発によるものです。また、ZDFラットはZucker Diabetic Fatty ラットのことです。
野口俊英
これまで歯周病と糖尿病との関連性についてはTNF-αや前回説明しましたAGE(最終糖化産物)の存在を中心に述べてきましたが、近年、糖尿病やメタボッリ クシンドロームを始めとする多くの病気の発症に軽微な慢性炎症(micro inflammation)が関わっていることが議論されています。
歯周病は多くの人々の口腔内に存在する慢性炎症性疾患であることを考えますと、歯周組織における炎症が糖尿病のみならず全身の他の疾患(動脈硬化症など)にも何らかの影響を及ぼしているとの報告もあり、今後の詳細な研究の進展が期待されています。
野口俊英
前回、歯周病と糖尿病の進行において共通の因子であるTNF-αについて述べましたが、糖尿病患者の高血 糖状態により生体のタンパク質が糖化された物質である最終糖化産物(AGE:Advanced Glycation Endo-products)も歯周病の進行に大きな影響を及ぼすことが近年、明らかになってきました。
歯周組織の主要な組織である歯肉にはコラーゲンを中心とする蛋白質が多いため、進行した糖尿病患者では歯周組織にもAGEが多く存在するようになるとと考えられ、このことが歯周病の進行を促すのではないかと考えられています。
野口俊英
前回までの話で歯周病と糖尿病とに共通する悪玉としてサイトカイン(生理活性物質)の一種であるTNF-αが存在することを示唆しました。
そして、糖尿病の程度を表す一つの指 標であるHbA1c(グリコヘモグロビン)とTNF-αとは強い相関があることも報告されています。すなわち、両方の病気はTNF-αを介して影響を及ぼしあっていることが推察されます。このことは歯周病が改善されれば糖尿病も改善される可能性があり、逆に糖尿病の改善は歯周病の恢復に良い影響を与える可能性があると思われます。このような観点から両疾患は双方向性を有していると言われます。
野口俊英
前回は糖尿病における「インスリン抵抗性」について述べましたが、その際、脂肪組織の細胞からアディポサイトカインと呼ばれる生理活性物質(TNF-α、IL−6、レプチン、アディポネクチンなど)が産生され、インスリン抵抗性の成立に関与していることが明 らかになってきました。一方、歯周病では歯周組織に生じた著しい炎症組織からTNFーα、IL−1などの多様なサイトカインが放出されています。そしてそれらのサイトカインの放出に重要な働きをするのが歯周病関連細菌だということも証明され始めています。
野口俊英
歯周病と糖尿病とが強い関連性を有していることをこれまでは主に臨床的な観点から見てきましたが、今回からは基礎的な研究によって明らかになった 両者の関連性を紹介させて頂きます。糖尿病の発症にはいろいろな原因がありますが、この度は2型糖尿病の患者さんに多くみられるインスリン抵抗性に注目して述べてみます。インスリン抵抗性とは、血中のインスリン濃度に必要なインスリン作用が得られない状態であり、肝臓、骨格筋、脂肪組織などの臓器でインスリンが存在するにも関わらず、その作用が十分に発揮されないこと、すなわち糖の処理能力が落ちているということです。次回からはこのインスリン抵抗性を介しての糖尿病と歯周病との関連性について述べてみます。
これまで2型糖尿病と歯周病との関係について述べてきましたが、1型糖尿病も歯周病と関連があるのでしょうか?1型糖尿病は全糖尿病患者の5%程度ですが、1型糖尿病では膵臓のランゲルスハンス島ベーター細胞が破壊 され、インスリン量が絶対的に不足しています。遺伝的因子やウイルス感染などが原因と考えられており、若年者に多くみられます。歯周病との関連性は2型糖尿病と同様に強く多くの報告が見られます。若年者では高齢者にみられるような生活習慣病の影響が少ないため、両者の関連性がよりクリアーに観察されると言われています。
野口俊英
前回は「血糖値スパイク」の紹介をしましたので、今回からは再度上述のタイトルで話を進めていきます。糖尿病になりますと多くの合併症を発症しやすくなります。大別しますと大血管症と細小血管症です。大血管症とし ては脳血管障害、虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症があります。また、、細小血管症としては網膜症、腎症、神経障害があり、これらは糖尿病性の3大合併症と呼ばれています。その他の合併症として歯周病、糖尿病足病変、皮膚病変があります。歯周病は糖尿病の第6番目の合併症と報告され、医科の分野でもその認識が広がりつつあります。
野口俊英