前回までは歯周病により破壊された歯周組織を健康な状態と同じ構造で治す歯周外科再生療法の概念、および特殊なメンブレン(吸収性、非吸収性)を用いた再生療法について述べました。今回は、これらの方法とは全く異なる発想で開発されたエナメルマトリッ クス蛋白(商品名、EMD Enamel Matrix Derivative)を用いる再生療法について述べます。この蛋白質は1976年にSlavkinにより発見された歯の発生に関する重要な蛋白質です。歯の表面に存在するエナメル質が作られる時にエナメル芽細胞により分泌されますが、歯の根の部分が作られる時にも形成されます。そして、歯の根の部分の成長する過程で、このエナメルマトリックス蛋白が歯周組織の再生に重要な役割を果たすセメント質の形成に関与することが明らかになりました。このエナメルマトリックス蛋白は健康なヒトの歯から採取することは不可能ですので、生後約六カ月齢の幼若ブタの歯胚(歯が発生する初期の組織)から抽出され、精製されました。EMDは様々な生物学的作用を有していますが、その中でも歯周組織を構成する各種の細胞(歯肉線維芽細 胞、セメント芽細胞、骨芽細胞など)に対する細胞増殖作用や細胞接着作用などが知られています。EMDはメンブレンを用いるGTR法と比較して術式が容易であることもあり広く普及しています。また、EMDとGTR法とを比較した研究では両者に差が無いことも報告されています。
野口俊英